SDGsとは全ての人に関わること
SDGsは「Sustinable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されています。2015年9月に開催された国連総会で採択された世界基準の目標です。前進のMDGs(ミレニアム開発目標・2000年9月に採択)で未達だったことや地球環境、社会環境の変化に応じる形で新しく採択されました。
そのことからMDGsの内容を引き継いでいる部分と近年の変化に合わせて目標の追加と細分化を行った構成になっています。
SDGsに変わったことでの大きな変化としては、理念として「No one will be left behind(誰一人取り残さない)」が掲げられていることです。目標達成に関わる人またはその恩恵を受ける人、全ての人類に関わることとされており、その実現のための大きな目標17個と、そこから細分化された169のターゲットが設定されています。
持続可能な17個の目標

もちろんこの項目すべてにコミットしないといけないわけではありません。たとえば一般的な日本人がプライベートの部分で関わるものはこんな感じになります。
一般的な日本人がプライベートの部分で関わる目標

おそらくプライベートな時間でもこの項目は関わり合いを持つのでは無いでしょうか。たとえば、「12. つくる責任つかう責任」についてはプラスチック製品を使用する側として「再利用できるようにしっかり分別をする」「マイバックを持って買い物に行き、ビニール袋はもらわない」などが該当すると思います。
「13. 気候変動に具体的な対策を」であれば「駐車中のアイドリングストップ」「EV車へ乗り換え」「距離移動は公共交通機関を利用する」など些細なことではありますが、これも関わり合いのある話です。
ビジネスにおいてのSDGs
ではビジネスにおいてはどのような貢献ができるでしょうか。この記事を読まれている方は不動産に関わる方が多いので、その方向性で考えてみましょう。
不動産業界のビジネスで関わる目標

このような項目が日々のビジネスに関わってくると思われます。不動産に関わるポイントであれば、
9・12=製造に携わる部門で地球環境へ配慮が必要
6・7・11・13=居住環境、とくに温室効果ガス排出やレジリエンス対策として関わる
17=それらの目標を達成するための他社とのアライアンス提携
などが考えられます。もちろん「売上の一部をユニセフや環境保護団体に」となれば関連項目は増えますが、全てに手を付けるのではなく、自社の事業や理念、企業文化を基に関わるポイントに重点を置き、いかに達成をするかを考えることが企業としてSDGsに取り組む近道ということです。
日本の企業はどのくらい取り組んでいるのか
帝国データバンクが2020年7月14日に発表した「SDGsに関する企業の意識調査(※)」によると、回答した企業の24.4%が積極的にSDGsに取り組んでいるという結果がでました。
ただし、「意味および重要性を理解し取り組んでいる」企業は8.0%にとどまり、半数近くが「SDGs」という言葉を知っていても取り組んでいない現状でした。
出処:帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査」
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p200708.html
そんななかでも先手でSDGsに取り組んでいる企業も多くあります。不動産業界では三井不動産グループが挙げられます。三井不動産グループは17個の全ての目標に対して取り組みを実施しています。
特筆すべきは、認定NPOやコンソーシアム、社内ベンチャーの立ち上げなど、それぞれの目標に対し多角的に行動し、1つの目標達成がほかの目標にもシナジー効果を生む取り組みを行っている点です。
SDGsは企業好感度上昇につながる
上述の帝国データバンクの調査結果で、SDGsの貢献によって企業価値のなかでも好感度があがると考えている企業は53.3%を占めました。社会的評価も5割を超えており、一般社会や顧客、ステークホルダーからの見られ方に影響があると考えているようです。
実際にCSR(企業の社会的責任/Corporate Social Responsibility)にその行動を掲載する企業は多くあります。CSRの内容を充実させステークホルダーや一般投資家などから好印象を受けることは、企業価値や認知の向上、上場企業であれば株価に好影響を与えることにつながります。
企業価値や株価への影響だけではありません。博報堂が2019年に実施した「生活者のサステナブル購買行動調査」によると、「環境や社会に悪影響を与える商品・企業に対する不買意識」、逆説的に「環境や社会に配慮した商品に対する購入意向」が70~80%を占めるという結果が出ています。つまり消費者の選択肢に残るためにもSDGsは欠かせないということです。
SDGsを偽れば逆に悪評が立つ
好感度上昇につながるSDGsに関わる活動ですが、SDGsに関わらず虚偽報告や有言実行されていなかったということになれば、逆に世間から冷たい目を向けられることになります。SDGsにおいてはこのような行為を「SDGsウォッシュ」と呼びます。語源は上っ面をごまかすという「whitewash」という単語からきています。
実例を上げてみましょう。日本人なら誰もが知っている三大メガバンクのひとつ「みずほ銀行」。2020年東京オリンピックのゴールドスポンサーでもあり、脱炭素社会への取り組みも行う、CSR活動の模範的企業です。
しかしその一方で、2020年に石炭火力発電事業の新設に対して融資を行っていたことが判明し、ほうぼうから叩かれました。結果、石炭火力に対する新規融資を停止し、貸付済残高を2050年(のちに2040年に修正)までにゼロにするという方針を打ち出し、火消しに躍起となりました。
流石にみずほ銀行は金融の大企業ですので、SDGsウォッシュが判明しただけで倒れるようなことはありませんが、経営方針に大きく影響したのは事実です。逆に、融資を中止された石炭火力発電事業の会社の規模によっては、事業の撤退や縮小などまで行き着くことも考えられます。
このようにSDGsに逆行するような事業から金融業界が手を引くことを「ダイベストメント(投資する意のインベストメントの反語)」と言われます。このあたりからESG投資の分野になります。
ESGは投資に関わる会社指標
SDGsとESGは同時に語られることが多いですが、ESGは全ての人に関わることというよりは、企業経営や金融業界、投資家に関わるジャンルになります。SDGsが17個の指標だったのに対し、ESGは3個に分類されています。
環境(Environment)社会(Social)管理(Governance)の頭文字をとってESGと略されていますが、つまりは企業体として「環境配慮を怠っていないか」「社会貢献できているか」「経営管理がしっかりされているか」を測るものです。SDGsと同時に語られることが多いのは「E:環境」と「S:社会」がSDGsと被る部分が多いからです。
投資指標であるESGの考え方は2006年に「PRI(責任投資原則/Principles for Responsible Investment)」が国連で提唱されたことに起因しています。
ESGで評価を受けると資金が潤う?
上述の企業活動を指標に金融業界が動くので「ESG投資」と言われています。ESGの評価が高い企業には融資条件の緩和であったり、ESG投資信託商品に組み込まれたりというメリットが生まれます。それで株価が上がれば、機関投資家だけでなく個人投資家からも投資を呼び込むことができます。
非上場の企業でも関係ないとは言い切れません。ESGに関する活動を行っている会社が、取引先の基準として利用する場合もあるからです。自社が率先してESG活動を行っていても、取引先やサプライヤーが取り組んでいないと自社の活動に傷がつくおそれがあるからです。
こちらも例を挙げましょう。日本の自動車業界を牽引し続けているトヨタ自動車です。トヨタ自動車はEV(電気自動車)にシフトしている日産自動車とは違い、FCV(水素自動車)にシフトしてきており、自動車メーカーとして脱炭素社会を見つめています。
そんなトヨタ自動車はサプライチェーン全体で温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボニュートラル)を目指しています。その一環として主要一次取引先に前年比マイナス3%の二酸化炭素排出目標を要請しました。上場企業でなくても関わり合いがないと言えないことが分かります。
不動産業界においてのESGは
では不動産業界はどうでしょうか。不動産の管轄省庁である国土交通省において「責任ある不動産投資(RPI)」の基本的な考え方が提唱されています。以下に抜粋します。
<10か条の責任不動産投資戦略>
- 省エネルギー(省エネルギーのための設備改良、グリーン発電およびグリーン電力購入、エネルギー効率の高い建物など)
- 環境保護(節水、固形廃棄物のリサイクル、生息地保護など)
- 自発的認証制度(グリーンビルディング認証、認証を受けた持続可能な木材による仕上げなど)
- 歩行に適した都市整備(公共交通指向型都市開発、歩行に適したコミュニティ、複合用途開発など)
- 都市再生と不動産の利用変化への柔軟性(未利用地開発、柔軟に変更可能なインテリア、汚染土壌地の再開発など)
- 安全衛生(敷地内の保安、自然災害の防止策、救急対応の備えなど)
- 労働者福祉(構内託児所、広場、室内環境のクオリティー、バリアフリーデザインなど)
- 企業市民(法規の遵守、持続可能性の開示と報告、社外取締役の任命、国連責任投資原則のような任意規約の採択、ステークホルダーとの関わりなど)
- 社会的公正性とコミュニティ開発(低所得者向け住宅供給、コミュニティの雇用研修プログラム、公正な労働慣行など)
- 地域市民としての活動(質の高いデザイン、近隣への影響の極小化、地域に配慮した建設プロセス、コミュニティ福祉、歴史的な場所の保護、不当な影響の排除など)
E:環境(省エネルギーなど)・S:社会(敷地内保安など)・G:管理(法規の遵守など)いずれにおいても該当項目があります。このような基準を満たす不動産開発を行うことがESG活動として望ましく、評価されやすいと言えます。
ダイベストメントの危険も
SDGsの最後に説明したダイベストメントは、ESG投資のなかでパワーワードになりつつあります。ESGの進捗が悪い企業、もしくは「環境」や「社会」に悪影響を及ぼす商品を扱う企業、例えば石油・石炭火力・たばこなどがよく悪例として挙げられますが、そのような商材を扱う企業は、投資対象から外されることを覚悟しないとならないかもしれません。
実際にみずほ銀行や三菱UFJ銀行は、石炭火力発電所に対する投融資から撤退していたり、ノルウェーの年金基金も石炭火力発電所を使用していることを理由に中国電力や北陸電力、Jパワーなどから投資を撤退させています。JTもオランダの年金基金から投資対象とされていましたが、すでに撤退されています。
ダイベストメントの理由としては、石炭火力によるCO2排出やたばこによる健康被害と、理由は様々ですが、結論としてSDGsの目標達成を逆行させてしまう商材の販売や設備を保有していることが理由になっています。
石油やたばこだけではありません、どんな業界でも周りのレベルが上がっていくと低レベルな活動だけを行っている企業の評価は相対的に下がっていきます。そうなるとお金はレベルの高いところに流れていってしまい、最終的に出資や融資が止まってしまう危険性もあるのです。
できることからコツコツ積み上げていくことが大事
ではどこからどのように手をつけていけばよいかと考えてしまうことでしょう。日本においては環境問題、とくに温室効果ガス削減が注目されやすい傾向にあります。環境問題はSDGsにもESGにも関わる重点項目ですが、海外からの圧力があることも理由のひとつです。
海外からの圧力というのは、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)において日本の削減対策の弱さを痛烈に批判されていることです。それに呼応して日本政府も2030年までの削減目標を2013年度比でマイナス46%に上方修正していたり、菅義偉首相による2050年温室効果ガス排出量実質ゼロを達成させると演説した影響もあります。
社会情勢的に目が付きやすい項目から取り掛かれば企業評価に直結しやすいので、選択肢の選び方としては賢明でしょう。とはいえ、いきなりあれもこれも取り組もうというのはSDGsでも述べたように無理があります。企業としたら人員や資金の問題もあるでしょう。どれだけ予算や人員が割けるのかを見極め、自社でなにから取り組めるかを吟味して始めることを強くおすすめします。