COLUMN ソラシェアコラム

BCP対策や自治体災害担当者必読の「スマートレジリエンス」

レジリエンスとは、端的に言えば復旧力

環境変化対応と災害対策で「レジリエンス経営」をでも説明していますが、レジリエンスは近年、環境問題や経営戦略でも使われるようになった言葉で、もともとは物理学や心理学で「回復力・復元力」などという意味で使用されている英語です。環境問題や経営戦略の危機管理で使う場合は災害などからの「復旧力」と訳すのが自然です。

都市開発や地域再生などにレジリエンスのターゲットとして関わるのは、以下の項目が該当すると考えられます。

  • 気候変動による異常気象
  • 地震などの天変地異
  • テロやサイバー攻撃などの無差別攻撃
  • 環境汚染からの復興 など

レジリエンスがスマートになると平時の脱炭素化も実現可能

スマートレジリエンスとは、被災時の復旧力を備えるのと同時に、平時でもそれを活用し「脱炭素化」や防災、省エネなどに対応できるという、賢いレジリエンス対策のことを指します。

通常時の電気は、大規模発電所から供給される電力を電線をしようして供給されています。しかし災害時など、なんらかの理由により電線が破断された場合、その供給先は停電を余儀なくされます。

しかしスマートレジリエンスは、域内にある太陽光発電システムや蓄電池システムなどをネットワーク化し、その域内で融通をするというものです。これは熱源(ガス)や水道などでも同じ要領で構成されます。電気、ガス、水道を合わせて構成することで、非常時に対する復旧力をつけることになります。

電力においてこのような概念をDER(分散型エネルギー源)と呼び、将来的には仮想発電所(VPP)につながる仕様になっています。

スマートレジリエンスの好例

冒頭で記したようにスマートレジリエンスは大きく分けて3つのジャンルに分けられます。それぞれの好例をみて、取り入れられることがあれば、企業のレジリエンス対策に取り入れてみてはいかがでしょうか。

都市設置型の例:日本橋エネルギーセンター(三井不動産・東京ガス)

東京で直下型地震が起きたり、東南海トラフ地震が発生した場合、都心部でも被害が甚大になる可能性が示唆されています。その対策として、日本橋エリアを開発する三井不動産が東京ガスとタッグを組んで始めたのが「日本橋スマートエネルギープロジェクト」です。

三井不動産所有の「日本橋室町三井タワー(商業施設名:コレド室町)」内に、「日本橋エネルギーセンター」を設置して、日本橋エリアの指定区画にエネルギー供給をするというものです。注目すべき点は、三井不動産所有物件だけでなく、東京都選定歴史的建造物としても指定されている三越日本橋本店本館などにも供給していることです。

このプロジェクトは都市開発を行う企業にとって、大変参考になる事例が含まれています。ひとつはエネルギー供給企業の東京ガスとの共同事業であること、もうひとつは新旧、自社他社関わらずエリアの建物にエネルギー供給を行っている点です。</>

この場合はガスですが、自社所有の建物に太陽光発電設備が載せられる物件が多い地域では、それらのエネルギーを束ねることも可能です。ガスからの変換も可能ですが、電気の供給が重要になるのは、貯水タンクや井戸水の組み上げなどにも電力を使用することが多く、水道供給にも影響するからです。

もう1点このプロジェクトで重要なのは「既存ガス管」の使用という点です。大震災などの場合は、地中の設備は被災しやすいですが、阪神淡路もしくは東日本大震災級でも耐えうる規格のガス管を採用しているので、供給停止には至らないとされています。この点もレジリエンスとしては非常に重要です。

自治体主導型の例:小田原市災害用電源にEV車採用

箱根の玄関口として知られる神奈川県小田原市はEV車(電気自動車)を「動く蓄電池」として導入し、小田原市内と箱根町、湯河原町にカーシェアスポットを設置。そこに配置されているEV車の電力を災害時の非常用電源として利用する取り組みを行っています。

カーシェアスポットの運営は民間に委託し、EV車の配置数などは順次増備する計画です。EV車への充電には再生可能エネルギーが用いられているため、脱炭素にも貢献しているプロジェクトになっています。

このプロジェクトでも上述の日本橋エネルギーセンター同様、全体の発電量・使用量などを管理するためのシステムが採用されています。委託先の民間企業が開発した独自システムにより、カーシェアの予約・使用状況を参照し、適切な時間を見て充電を行っています。

蓄電池のかわりにEV車を導入する動きは以前から注目されており、V2H(vehicle to House/乗り物から家庭へ)システムを導入する一般家庭も増えています。なぜなら蓄電池導入コストよりも乗り物としても使えるEV車導入のほうがコストパフォーマンスが優れているからです。

コミュニティ型の例:金沢工業大学 白山麓キャンパス

ここまで紹介した2つよりも小さい単位になるコミュニティの例として大学を紹介します。

石川県の金沢工業大学地方創生研究所が使用している白山麓キャンパスのプロジェクトです。

このプロジェクトも規模すら違えど、非常時も平時も使用できるスマートレジリエンスかつ再生可能エネルギーのミックスによる電気と熱の供給で、脱炭素にも貢献しています。仕様としては太陽光発電システムとバイオマス発電を使用して、キャンパス内の実証実験用コテージに電気と熱を安定供給するものです。

バイオマス発電で発生した熱エネルギーを、建物の温水暖房機に使用し、それで不足する文を太陽光とバイオマスで発電した電気を利用して補うという仕様です。

地方創生研究所の実証実験ではありますが、この単位を最小とすると、域内でこのようなケースの建物で満たされた場合、最終的には都市設置例のレベルにまで広げることが可能です。

肝心なのは災害時対応と地域の価値向上の両立

今回はスマートレジリエンスの例と合わせて解説しましたが、都市開発に重要なのはその地域の価値上昇です。そうでなければ、都市開発の意味を成しません。SDGsや脱炭素が推進される現代では、その観点も外すわけには行きません。

逆にレジレンス対策も、中途半端であれば非常時に意味を成しません。「非常時の最悪を想定して手当をしながら、都市価値向上を図れ、SDGsや脱炭素が推進できること」というのが現状でのスマートレジリエンスの解答だと考えられます。合わせて、企業としての活動であれば、試算した成果を明確にして、一般社会に広く周知することで企業価値の向上も図ることができます。

スマートレジリエンスに取り掛かる企業は、非常時の効果、企業価値、地域の価値、脱炭素やSDGsの「シナジー」を捉えて計画することから始めるのが最善策と言えます。